2024.01.27  微粒子ピーニング処理と硬質皮膜の組み合わせによるパンチの寿命向上

微粒子ピーニング処理と硬質皮膜の組み合わせによるパンチの寿命向上

六角ボルト穴加工用の工具鋼パンチは激しい摩耗損傷に曝されます。そこでこのパンチにTiNコーティングを施すことにより寿命を約5倍に延長することができました。しかし...

TiN皮膜形成により寿命が延長

TiNコーティングをしないパンチは寿命は短いものの、凝着や摩耗によって損傷が進行するので交換時期が予測できます。つまり品質管理が容易です。

コーティング無し

一方、TiNコーティングしたパンチは寿命は長いですが、突発的な欠けによって損傷するので、高サイクル加工では瞬時に大量の不良品が発生してしまいます。つまり品質管理が困難です。

TiNコーティング

従来の表面設計では、耐摩耗性を重視するあまりにパンチの基材である工具鋼の硬さを硬くし、さらにその上に硬質薄膜を付与することが多いです。

しかしその代償として疲労強度や靱性が劣化し脆性的な欠けや疲労破壊を誘発しやすくなってしまいます。

推奨される表面設計は、基材の材料特性を向上させる表面改質を施した上で硬質薄膜を形成させることができます。

推奨される表面設計

硬質薄膜形成によって基材の疲労強度は劣化します。これは脆い硬質薄膜に発生するマイクロクラックが基材へと進展するためです。

つまり、硬質薄膜形成は耐摩耗性を向上する反面、疲労強度を低下させてしまいます。

マイクロクラック

基材の表面改質処理としてWPC処理を施すと疲労強度が向上します。これは主として基材表面に大きな圧縮残留応力が付与されるためです。

疲労試験結果

微粒子ピーニング処理によって疲労強度が向上した基材にTiNコーティングを施しても疲労強度の劣化はわずかであり、依然として高い疲労強度を示します。また、TiNコーティングを溶解除去すると、もとのWPC処理剤の疲労強度に戻ります。

このことから微粒子ピーニング処理によって付与される圧縮残留応力は硬質薄膜形成後も有効に維持されていると考えられます。

このように、微粒子ピーニング処理と硬質薄膜を適切に組み合わせることによって、耐摩耗性と疲労強度や靱性をバランスよく向上することができます。

Fatigue test