2023.12.06  表面設計コンソーシアム、設立講演会を開催

表面設計コンソーシアム、設立講演会を開催

 当コンソーシアムは11月15日、神奈川県海老名市の神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)海老名本部で催された「Innovation Hub 2023」の1フォーラムとして、「表面設計コンソーシアム 設立講演会~神奈川から世界へ、ものづくり中小企業による産学公地域連携の新しいカタチ~」を開催した。当日はKISTEC理事長の北森武彦氏の挨拶に続いて、以下のとおり講演がなされた

 KISTEC 川崎技術支援部長の髙木 眞一氏が、「KISTECのものづくり中小企業支援と表面設計コンソーシアム」と題して講演した。表面に優れた機能を与えるには、ベース素材の材料設計技術や表面改質技術、その上に被覆する薄膜制御技術、さらには最表面のテクスチャ制御技術までをトータルに高度なレベルで協調させる「設計」が必要であるとする表面設計の考え方について説明。現象が複雑・動的でメカニズム解明が容易でないといった表面技術分野において、KISTECなど公設試は分析・評価技術に強みはあるものの、生産技術に関わる企業にニーズ・オーダーに対して1機関で表面設計ソリューションを開発・提供することは難しい。これに対し表面設計のスペシャリスト集団である表面設計コンソーシアムは、情報が分散しがちで目標が不明瞭になりがちといった、ものづくり企業を取り巻く環境の変化や課題に対して、ワンストップで情報を集約・統合し目標の明確化と技術の統合を図り技術の高付加価値化につなげることのできる、産官公地域連携の新しい形である、と総括した。

 また、横浜国立大学大学院 工学研究院長の梅澤 修氏が、「擦り合わせ技術の複合化によるシステムソリューションを目指す」と題して講演。大量生産・大量消費・大量廃棄社会からグリーン循環社会へとパラダイム変化する中で量の価値観から質の価値観へと変化してきている一方で、特に中小企業では低コスト競争で失われた人材能力(現場技術)や広い視野で本質をとらえる人材育成(研究開発)が課題となっている。中小企業では擦り合わせ技術に強みがある一方で、核心技術への理解不足、Designing力の欠如、ユーザーからの情報開示がなくソリューションにフィードバックできない、といった問題を抱えている。これに対し産学公連携の新しい形である企業主体の本コンソーシアムには、産業社会に対しては技術蓄積と競争力を生かし、人材を育成するとともに、課題とそのソリューションに関する情報を整理・共有するための懸け橋となってもらい、また中小企業に対しては核心技術を理解させて擦り合わせ技術をつなぐための、垂直連携による情報とソリューションの高度化を図るための役割を担ってほしい、と応援した。

 さらに、不二WPC 取締役 技術開発部長の熊谷正夫氏が「企業連携で目指すもの-新たなビジネスモデルと複合技術によるイノベーション」と題して講演。日本はもはや技術的にも先進国ではなく、技術開発の主体は大企業から中小企業へと移っている。こうした日本の生き残る道は「製品・技術の付加価値を高め、かつ内需を増やす(高く売って賃金に反映させる)」ことで、産学公連携による複合技術によって最適な表面設計を実現することで、ユーザーにコストプライスではなくバリュープライスを認めてもらうことが重要。バリューを評価してもらうための中心的なスペースとして、不二WPC内に新設した「ソリューションラボ」を、ユーザーとともに実際の不具合品を見ながら故障解析を行い複合技術による最適化提案を行うほか、これから必要となる技術開発のための単体試験・実証試験が行え複合技術による技術提案ができる場と紹介。また、単一技術では要求特性に対し十分な効果が得られない場合に、(学術的な知見や製造技術を踏まえて総合的に協調させる)表面設計的な複合技術が有効である事例を示した。

 その後、コンソーシアムメンバー各社の得意技術紹介が以下のとおり行われた。

 不二WPC 技術開発部 主任研究員の斎藤邦夫氏は、弾性変形がメインのショットピーニングに対し塑性変形がメインのWPC処理は表面組織の微細化による疲労強度向上や、残留応力の付与といった、さまざまな特長を持つことを説明したほか、機械部品の破壊の8割を占めるとされる疲労破壊のWPCによる対策事例などを紹介。さらに食品分野で採用実績の多いFDA取得のDLCとWPCの複合処理の提供が可能とアピールした。

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不二WPC講演資料

 日本電子工業 相模原工場長の池永 薫氏は、同社が①高周波焼入れ・焼戻し、②プラズマ窒化、③セラミックコーティング・DLCなどの硬質被膜と言う各種表面改質処理を、ユーザーニーズに合わせて提供できることを紹介。プラズマ窒化処理層の上にSi含有DLC膜を組み合わせたハイブリッド処理では、DLCで通常必要なCr系中間層が不要でダイレクトに成膜でき、さらに同ハイブリッド処理を一つの炉で連続処理できるという強みをアピールした。

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日本電子工業講演資料

 武藤工業 企画開発部長の中村正美氏は、真空熱処理、ソルト焼入れ、油焼入れ、サブゼロ処理など同社が手掛ける幅広い処理について、特長や処理事例を紹介。また、同社HPでは熱処理研究等に関して直感的に理解できる「お役立ち資料」がダウンロードできることをアピールした。熱処理は機械的特性を高めるが、材料を硬くした時のコーティングへの影響やワイヤーカットへの影響を考慮する必要があるとして、コーティングや切削技術のスペシャリストを抱えるコンソーシアムとの協調で最善の方法を提案していきたいを述べた。

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武藤工業講演資料

 昭和精工 代表取締役の木田成人氏は、金属プレス用金型と金型を使用した設備に強みがあること、近年では新分野としてリチウムイオン電池用金型の受注が伸びていることなどを紹介。国内最大市場シェアを持つ飲料・食品アルミ容器金型に関するトピックスとして、SDGsの観点からペットボトルに代わり需要が増してきているリサイクル率94%のアルミ缶における新しい成形の話題などについて紹介した。また、新しい試みであるキャンプ製品の開発・販売やSNSを利用したウェブマーケティングなどについて紹介した。

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昭和精工講演資料

 KISTEC 川崎技術支援部長の髙木眞一氏は、ソリューションラボの保有する試験・分析設備で主だった解析は十分可能だが、より詳細な分析が必要とされる際にはKISTECの分析・評価設備が利用できることを紹介。微粒子ピーニングによる浸炭焼入れの鋼表面のナノ結晶化や、ファインブランキング用金型の耐久性向上などの分析・評価事例を紹介しつつ、集束イオンビーム(FIB)と透過電子顕微鏡(TEM)、電子線マイクロアナライザー(EPMA)などKISTECの保有する微細構造解析や成分分析機器などを駆使して、表面にまつわる不具合原因解明や新技術開発の支援が可能なことをアピールした。

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KISTEC講演資料